長く愛用する、自分のための一本が欲しかった。国内・海外で様々なメーカーがあるが、『こだわりの一本』を求めるなら、中屋万年筆かなと思った。「憧れの万年筆」として挙げられているのを見かけるし、オーダーメイドで自分に合った万年筆を作ってくれるので。
万年筆をオーダーするにあたり、軸のデザインと、ペン先の太さ・軟ペン加工の有無・デザイン、クリップ・廻り止めを付けるかを決める。軸のデザインは、定番品のロング・ポータブル・ピッコロなどのほかに、特注品で蒔絵や螺鈿などをあしらったものなどがある。
https://nakaya.org/introgallery.aspx
ペン先は、他社と同様にそれぞれの字幅で用意されているほか、中軟・細軟という、通常よりペン先が軟らかく少し太い字も書けるものや、ペン先の両端に切っかきを入れてさらに軟らかくする軟ペン加工が行える。ペン先のデザインは、ゴールドや染分けの他、ピンクゴールド・ロジウム・ルテニウムも選べる。
https://www.nakaya.org/manual/default.aspx?item=pensaki
軸のデザインによっては付けられないものもあるが、クリップや廻り止めも付けられる。廻り止めは動植物をモチーフにしたものが多く、机上でペンが回らないようにする実用面でのメリットの他に、ペンをより自分らしくできる。
僕は、「収納時はポータブルと同じサイズだが、筆記時はロングと同じサイズになる」という『両切り』に魅力を感じたため、このデザインにした。また、抹茶のような本塗りの色合いと、上塗りの漆の飴色に和菓子っぽさ・やわらかさを覚えグッと来たので、色は『碧溜』を選んだ。ペン先は中屋万年筆ならではの『中軟』で、染分けのデザインを選択した。クリップ・廻り止めに関しては、両切りにはこれらを付けられないので、選んでいない。
両切りのデザインは中屋万年筆公式Webサイトからの注文に限られているため、それぞれで用意されている選択肢から選んでいった。そのような縛りのない軸で、なおかつ面倒に思わないようであれば、中屋万年筆の実演販売に赴き、実物を見て相談しつつ選ぶのも良いと思う。
欲しいものが決まったので、中屋万年筆の公式Webサイトよりオーダーした。この際、ペン先を万年筆利用者本人の書き癖に合わせて調整するため、以下のカルテを記載するフローが含まれていた。
- 筆圧
- ペンを持つ位置
- 筆記スピード
- 字の大きさ
- 書体
- ペンの傾け方
- ペンのひねり具合
- ペンの持ち手(右手・左手)
あれこれ入力を終え、ペンへの名入れもカルテにて記載し、オーダーしたのが昨年の8月頭。名入れの確認をメールでやり取りした後、オーダーした際に連絡をいただいた通り、半年ほど経った今年の3月中旬ごろ、ついに待ちに待った万年筆が届いた。
知ってはいたが、段ボールを開けて緩衝材を取ると「特製萬年筆」と書かれた桐箱が入っていた。ワクワクが止まらない。
桐箱を開けると、こんな感じ。万年筆は万年筆入れに入れられており、また、カートリッジインクも同封されている。万年筆入れも付けてくれるのは、すごくありがたい。
手製の万年筆入れ。使い勝手が良く、なにより漆塗りの万年筆に馴染むデザイン。
万年筆入れから取り出し、ご対面。思い描いていたイメージ通りの風合い。深みのあるやさしい色合いで、手に馴染むしっとりとした触感。注文時に何色で名前を入れてもらうか悩んだけど、金色を選んで良かった。
キャップを開ける。4条ネジなので、少ない回転数で、手早くキャップを開け閉めできる。キャップの接合部分、ネジ溝、ニブの根本に本塗りの碧色が浮いて出ており、惚れ惚れする。軸は割と太めで、安定して書ける。漆塗りのしっとり感も、これに一役買っている。
中軟・染分けのニブ。デザインはシンプルで落ち着いた感じ。注文時のカルテで入力した内容に沿って、ペン先は調整済み。
これに入れるインクは、プラチナ万年筆 クラシックインクのセピアブラック。万年筆のインクを選ぶ際は、自社の万年筆に合わせてインクの調整がなされているという都合から、基本的に万年筆と同じメーカーから選ぶのが望ましいと思っている。中屋万年筆は、プラチナ万年筆の職人さんが立ち上げたブランドなので、このインクを選んだ。
クラシックインク(や、顔料インク)は染料インクと比べて、文字を書かずにペンを長期間放置した場合、成分がペン内部に沈着し、インク詰まりを引き起こす可能性がより高い。僕自身は日記を書くために毎日使うのでクラシックインクを選んだけど、使用頻度が読めないなら染料インクを選んでも良さそう。まぁ、しばらく使わないならペンを洗浄すればいい話ではあるが…。
書いた直後は色が鮮やかで、時間を経ると黒く変化する点と、耐光・耐水性に優れ、長期保存に適しているのが良い。日記を書くのにぴったり。
指一本でペンを支え、指を横に動かしてペンの自重だけで線を滑らかに引けるかを確認したけど、全く問題なし。スルッとインクが出た。ゆるくペンを持ち、紙にペン先を滑らせるだけでしっかりと文字を書けるのが万年筆の魅力。なおかつ、ほんの少しペン先に力を加えるとニブがしなり、太い字も書けるのが中軟の特徴。日記に書く文字が躍る。
クリップ・廻り止めが付いていないので、そのまま机に置くとペンが回ってしまう。なので、同じく中屋万年筆の万年筆枕も購入した。こちらは黒溜。際の部分によく出ている朱が、これまた良い。
これから長く使い込んでいくことで、ペン先のペンポイントが少しずつ削れて僕の書き癖にフィットし、より書きやすくなっていく。また、上塗りの生漆の透明度が少しずつ上がり、本塗りの碧色がより表れてくる。この一本とともに過ごしていく未来が楽しみ。